著作者人格権の不行使特約とその裁判例

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著作者人格権

著作物に関する契約では、「著作者人格権を行使しない」といった著作者人格権の不行使(放棄)特約が定められることがあります。

なお、著作者人格権とは、著作者の人格的利益の保護を目的とした権利で、複製権や翻案権といった、財産権としての著作権(著作財産権)とは区別されます。

著作者人格権の例として、次の権利があります。
公表権(公表されていない著作物を公衆に公表・提示する権利)
氏名表示権(著作物に実名などを表示し、または表示しない権利)
同一性保持権(意に反して著作物の変更、切除その他の改変を受けない権利)
「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用」されない権利

著作者人格権の不行使特約などによる不行使の同意がある場合には、相手方による、氏名の表示や非表示、改変は、それがいかなる態様であっても甘受しなければならないのでしょうか。

結論とまとめ

裁判例をみると、現状として、確定的・統一的は判断はされていないものの、一般的に、全ての場合に不行使特約自体を無効とする解釈はされてはいないようです。
一方、不行使特約(合意)があることをもって、直ちに著作者人格権の行使ができないと判断されるわけでもなく、著作物の類型や不行使の態様(氏名の表示や非表示、改変の態様)、契約全体の内容や締結の経緯などに照らし、個別のケースに応じて判断されているものと評価できます。

以下では、著作者人格権の行使に関連する一部の裁判例を紹介します。

著作者人格権の行使に関連する裁判例(一部)

著作者人格権の不行使特約の存在が認められたものの、著作者人格権(氏名表示権)の行使が認められた裁判例

原告を含む複数の担当者によって執筆された出版物について、原告の氏名のみが「執筆者」として表示されなかった事例で、原告の氏名表示権の行使の可否が争点の一つとなった事例です(東京地判平成16年11月12日〔知的財産権入門事件〕)。

裁判例は、著作人格権を行使しない旨の覚書(合意)が存在していたとしても、このような「差別的な取扱いをも容認していたと認めることは,到底できない。」とし、著作者人格権の行使・侵害が認めました。

著作者人格権の不行使の同意(特約)がない場合、必要に応じて行う改変等は、著作者人格権(同一性保持権)の侵害にはならないとした裁判例

控訴人の著作物である平成12年度計装士技術維持講習会の資料について、被控訴人が改変を加え平成13年度及び14年度版の同資料を作成したことによる、控訴人の同一性保持権の侵害の有無が争点の一つとなった事例です(東京高判平成18年10月19日〔計装士講習会資料事件〕)。
裁判所は、「著作者が,第三者に対し,必要に応じて,変更,追加,切除等の改変を加えることをも含めて複製を黙示的に許諾しているような場合には、第三者が当該著作物の複製をするに当たって,必要に応じて行う変更,追加,切除等の改変は、著作者の同意に基づく改変として,同一性保持権の侵害にはならないものと解すべきである。」と判断しました。

裁判例は、そのうえで、変更箇所ごとに必要な範囲内での改変といえるかを検討し、結果として同一性保持権の侵害を否定しました。

著作者人格権の不行使の同意(特約)がない場合で、著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)の行使を認めなかった裁判例

著作権譲渡契約や同契約締結の経緯に照らし、被告の「本件各著作物を利用する行為が、原告の著作者人格権を害するなど通常の利用形態に著しく反する特段の事情の存在する場合はさておき、そのような事情の存在しない通常の利用行為に関する限りは、…、原告の有する著作者人格権に基づく権利を行使しない旨を約した(原告が同被告に対して許諾した、あるいは、請求権を放棄する旨約した。)」ものとし、著作者人格権(氏名表事件及び同一性保持権)侵害に基づく権利行使をすることは、信義則上許されないとしました(東京地判平成13年7月2日〔宇宙戦艦ヤマト事件〕)。

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