イラストの二次創作物と著作権

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現代は『翻案文化』?

SNSや動画投稿サイトなどのインターネット上では、漫画や画像、映画(動画)などの原著作物に改変を加え、新たな表現物を作成・発信することが広く行われており、今日では、ネットにおける文化の一つと評価しても過言ではありません。
(知的財産法学者である中山信弘東大名誉教授は、デジタル技術の発展により、一般大衆が、容易に、二次的著作物といった情報の創作者や発信者になり得るようになった現代を、「翻案文化」と呼ぶことができると評しています。)

もっとも、このような文化の発展の裏には、著作権という観点から決して無視することのできない側面を持っているのが実情です。
そこで、ここでは、著作物といった情報を発信する側にとって、著作権において留意したい点を簡単に解説します。 

著作権の侵害となりうる行為

イラストをはじめとする絵画の著作物によく見られる著作(財産)権侵害行為は、複製権又は翻案権の侵害です。
平たく言えば、作成した表現物が、既存の著作物に依拠(先行著作物の内容を認識)し、②既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと評価される場合には、複製権又は翻案権の侵害として、著作権の侵害に当たることになります。

例えば、Aさんが創作した左のイラストを元に、Bさんが無断で右のイラストを作成するような行為は、Aさんの複製権又は翻案権を侵害することになります。
※さらに、著作者人格権としての同一性保持権、氏名表示権の侵害に該当するも可能性があります。

「複製」とは、既存の著作物に依拠し既存の著作物の表現上の本質的特徴(創作的表現)を直接感得できるもの再製することです。
例えば、転載など、既存の著作物をそのままコピーすることは、これに該当します。
※ただし、引用として使用する場合には、その要件を満たしている限り、複製権の侵害にはなりません。

一方、「翻案」とは、既存の著作物に依拠し、これに接する者が、既存の著作物の表現上の本質的特徴(創作的表現)を直接感得できる別の著作物(二次的著作物)を創作することです。
例えば、既存の著作物をベースにして別の著作物を創作することは、これに該当する場合が多いと思われます。

両者の違いは、作成した表現物が、既存の著作物の再製にすぎないか、二次的著作物が創作されたかという評価の違いにあり、両者をはっきりと区別することは難しい場合があります。
そのため実務上は、厳密な区別がされないこともあります。

もっとも、たとえ原著作物に改変を加え、複製又は翻案をした場合でも、著作権者の許諾がある場合には、複製権又は翻案権の侵害にはなりません。
現在では、著作権者が、予め、複製又は翻案(二次創作)に関するルールをガイドラインといった形式で定めている場合があり、このような場合、その範囲内での改変は許諾しているものと評価できる場合もありますので、確認をすることが好ましいでしょう。

著作権の侵害が争われた事件

この事件は、大要、被告が作成した各イラスト(右)が、原告各イラスト(左)の複製権や翻案権、自動公衆送信権を侵害し、また、同一性保持権、氏名表示権を侵害していると主張し、原告イラストの使用等の差止め謝罪広告の掲載損害賠償を求めた事件です(マンション読本事件〔大阪地判平成21年3月26日判時2076号119頁〕)。

原告イラスト75(左)と被告イラスト1(右)。イラストは一部を抜粋したもの。

この請求に対し裁判所は、被告イラストが原告イラストの複製や翻案であるとは認めず著作権や著作者人格権の侵害を否定、原告の全ての請求を棄却しました。

裁判所が最初に対比した、上記2枚のイラストについては、
被告イラスト1(右)は、原告イラスト75(左)に「依拠して描かれたものと推認される」としたものの、口や眉、目、髪の毛の書き方、顔の輪郭の相違を理由の一つとし、被告イラスト1は、原告イラスト75の本質的な表現上の特徴を直接感得することができないとして、原告イラスト1を複製又は翻案したものとはいえないとしました。

パクリと著作権侵害

著作権侵害(複製権又は翻案権の侵害)であるかは既存の著作物に依拠したものと認められ、かつ、既存の著作物の本質的な表現上の特徴を直接感得することができるか、という基準によって認定がされます。

ですから、一般的な感覚として、単純に似ているとか、パクリであるとかの評価をもって著作権侵害が決せられる訳ではない点には留意する必要があります(パクリ≠著作権侵害

また、法律的根拠のない著作権侵害の主張は、態様によっては、それ自体で名誉毀損や信用毀損を始めとする法的責任を追及されてしまうおそれもあり、慎重に事実を検討する必要があります。
このように、一見して著作権侵害が疑われるにしても、対応を誤ると、かえって無用な紛争を招来させてしまうこともあり、客観的に第三者としての視点を持ち、適切な法律的判断に基づいて対応を検討することは不可欠です。

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